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[ET-SS21 Wyld-S] 男の感傷

彼のなまえのお話。

一枚のカードがある。裏に刻まれているのは単調な言葉。
“確定した過去 男の感傷 都市伝説 桜”
…貴方はカードを、めくりますか?


注)
※SSその21です。男の感傷的な回想のお話。
※相変わらず出来は保障されていませんが、お暇な方は続きからどうぞっ。
※SSなので読まなくても当ブログ閲覧には問題ありません、たぶん。
※凄惨な物、若しくはそれを連想させる内容を含んでいます。苦手な方はお逃げください。

 


[ET-SS21 Wyld-S] 男の感傷








男のある回想のお話


俺がそれを思い出したのは、同居人であるエルシオが唐突に言い出した、
妙ちくりんな話が切っ掛けだった。

「そういえば、桜の下には死体が埋まってるって話がありますよねぇ」
「…いやそういえばじゃねぇよ。この陽気にそぐわぬ突然の物騒だなオイ」
「そろそろお花見の季節だなぁと思いまして、ふと」

うららかな昼下がりに全く相応しくない発言に呆れながら資料に向けていた顔を上げる。
たぶん胡乱になってただろう俺の表情を気にもせず、飄々としたままエルシオは話を続ける。

「都市伝説でしたっけ、色鮮やかな桜の下をほってみたら死体が出たとかいう話。聞いたことありません?」
「無いことはないが…与太話だろ、そういうの。人間の死体だけに反応する桜とか嫌過ぎる」

実際問題人間の死体を埋めた時だけ鮮やかに染まる桜とか嫌過ぎる。吸血植物か何かか。
雑な態度でそう続けると、セルグは浪漫が無いですねぇ等と揶揄される。浪漫ってお前。

「無くて結構…というか、そもそも死体遺棄に浪漫を求めんな」
「死体遺棄って…いやまあ掘ってみるまで知られて無ければ確かにそうなんですけども。それにしたって情緒が無いですねぇ」
「俺にそんな妙な方面の情緒があるとでも?」
「えー、セルグ結構ロマンチストな所もあると思うんですけどねぇ…それに、あれです」
「凄いその評価には不服を申し立てたいが…何だよ?」

妙に嫌な評価をよこされ、思わず抗議しようとしたがその前に止まった言葉が気になり、
先を促すと、エルシオは胸の前で手を組み、柔らかく笑って口を開く。が、しかし。

「私は人死にのあった場所で、とても綺麗に咲く桜を見たことがあるので」
「え」
「あ、でもあそこに死体が埋まってるわけではないですし少し違いますかねぇ」

意外と妙な事を知っているこいつは話していると稀にとんでもない爆弾をぶちこんでくるのは
短くない付き合いで承知していたが、さらっと出てきた思ってもみない内容に思わず言葉と思考が止まる。
そんな俺を他所に、エルシオは話を続けた後少し遠くを眺めるかのように視線を窓の外へやった。
付け足されても問題はそこじゃねぇ。どう突っ込むべきか迷っていた所に、ふと外から足音がして、見知った声が聞こえてくる。

「主、此処にいましたか。そろそろ出かける時間です」
「あ、ファル。ありがとうございます、もうそんな時間でしたか。じゃあいってきまーす」
「お、おういってら……じゃねえよ、オイ待てさらっと物騒な件を言って去るなっ!?」

ファルに声をかけられ、あっさりと挨拶をして出かけるのを思わず見送ってしまい、
姿を消した後に虚空に突っ込んでから俺はかくりと首を落とす。
無駄に気になるような事を言って止めるのはやめろと度々言ってはいるのだが。

「ったく、あいつは本当時々面倒くせぇ…。………桜の下には、か」

ため息を吐いて会話を反芻するように思い返す最中、ふと昔の記憶が甦る。
あいつみたいに都市伝説に合致しているようでしてない話に心当たりはないが。

「そういや、桜の下に埋めたことはあったな…」

最近思い返すこともなかったというか半ば忘れていたので会話の最中には思い出せなかったが。
それは昔々、俺が独立もできてないガキであったそんな時分の出来事だった。





・ ・ ・ ・ ・





それは懐かしいと言うほどでもない話。

その日いつも通り唐突に俺を呼びつけた一応の上司である女は、
いつもの通りに笑顔を浮かべたまま、ワケが分からん事を言いだした。

「桜をねぇ、散らしてほしいのぉ」
「…意味がわからん。農場にでもいけってか?」
「あらあらふふふ、自然破壊しようなんて悪い子ねぇ」

思わず仏頂面でそう返した俺に向かって、微笑む紅色の女はからかうように笑い声をあげる。
必要なら何でもするしさせるくせに、自然破壊が悪いことだなどと冗談みたいな事を言う女。
相変わらずの嫌な会話のペースにむすっとしながら俺は言い返す。

「じゃあなんだよ、仕事なら分かるように言いやがれ」
「もう、ケイニスちゃんってばせっかちなんだから。昔は可愛かったのにぃ」
「昔のことは忘れやがれ。いいからとっとと詳細よこせ」

数年ばかり前の、要は黒歴史なこいつに懐いていた頃の事を揶揄られ、
女を睨みつけながらそう言うと、小さく肩を竦めて仕方ないわねぇと軽く笑われる。
相も変わらずガキ扱いされているとは思うが、これでムキになれば女を面白がらせるだけだ。
むすっとしたまま黙り込んだ俺を見て、女はふっと横手を向いて呼びかける。

「猫ちゃーん」
「はいはい、何だいお嬢」
「ケイニスちゃんにあれ見せてあげてぇ」
「はい、了解。ケイニス、おつかいだよ」


女が突然呼んだと思った時には確かに先程まで誰もいなかったはずの場所に茶髪の男がいた。
特徴のない、穏やかな笑顔の男…通称『猫』は一枚の紙と写真らしきものを俺に差し出す。
写真に写っているのは一人の女。年齢的には少女でも良いかもしれない。
ぼんやりとした薄桃色の瞳をした特徴の無いそいつの顔には少しばかり見覚えがあった

「そこにいるはずだから、行っておいで」

まるで子供にお使いを頼むかのように軽く渡された写真を懐にしまい、
残った紙を見ればそちらには行き先の指示と、そして。

「……ああ、分かった」

その女を終わらせろとの指示が何でもないようにあっさりと書かれていた。



・ ・ ・ ・ ・



指示通り、現地についてしまえば女は存外に早く見つかった。
いや、単に相手が動く気力もなかったからそうなっただけだろう。
薄暗い路地裏にまるで打ち捨てられたかのように座り込んでいたぼろぼろの女は、
近づいた俺と視線が合うと、一瞬目を見開いてからぽつりと小さな声で呟く。

「あぁ。あの人のお気に入りの…」
「その呼ばれ方はすげぇ不本意だ……後、今は蛇の牙だ」
「ああ、そう…そうなの。逃げても、結局全部がついてくるのね」
「………」

虚ろな声に何を答えるべきか悩み沈黙すると、女は何かを振り払うように首を振って更に続ける。

「本当、嫌になるわ…忘れられれば、良かったのに。ねぇ、あんたは平気な顔をしているけれど」

ざらりとした何とも言えない感情を声に乗せたその女は、酷く皮肉げに歪んだ笑みを浮かべて。

「あんたが知ってるなら、忘れ方を教えてくれないかしら」

どうしてか、ぼろぼろの女は掠れた声でそんな意味の分からないことを言った。

「いや知らん、というか何の話だ」
「そう。あんたは忘れなくても平気なのね、羨ましいわ……」
「…そもそも、何をそんなに忘れたいんだよ」

聞いておいて勝手に納得する女には辟易したが、皮肉げで強い笑みと相反するように、
あまりにも弱々しいその様子に思わずそんな風に問い返すと、女はまた笑った。

「全てを」

そう言って自嘲するように唇を更に歪めて言葉をさらに続ける。

「あそこで学んだことも、その過程で見たこともやったことも、もっと言えばその前の悲惨な生活も全て」

ぜんぶぜんぶ忘れてしまいたいわ。女の嘆きを聞いてああこの女は心が折れてしまっているのだと
俺は漸く理解した。汚れ仕事に耐えられなかったのかそれともなにかが足りなかったのか。
事情は分からないながら、結局この女の逃げた理由は諦めだったのだろうと、何となく感じた。

「俺だって別に平気なわけじゃねぇけどな、それでも道がそこしか無いなら走るしかねぇだろ」
「……本当に強いわね、羨ましいを通り越して、恨めしくなりそうだわ」

女はそう言いながら顔を上げた。写真では唯一特徴的だと思った薄桃色のその瞳は、
路地裏の薄闇に覆われてか光の無さのせいか、まるで暗闇に浸したような色に染まっている。

「…でも、そうね。羨ましいと言ったけど、結局あんたもあの人のオモチャなのよね」

嘲笑か、同情か、哀切か、そんなよく分からない想いを湛えているかのように。
そんな薄暗い光と、俺の姿と右手に握った短剣を写して、薄闇色の瞳が嗤う。

「捨てられ、気紛れに拾われたただのオモチャ…あの人に直接拾われたあんたの末路はどうなるかしら。今の私より、酷いものかもしれないわね」

あはは、と掠れた笑い声をあげる女と俺は確かに同じ玩具でしかないのかもしれない。
巣に拾われた元孤児。いくらでも変わりのいる子供。違いはきっと折れたかそうでないかだけ。
女は巣を逃げ出して、俺は巣で命令に従い続けている。ただそれだけだ。けれど、だからこそ。

「末路ね…碌なものじゃねぇだろうな。それでも俺は忘れたくはないし、逃げるつもりもねぇよ」

生きたいから、俺は逃げないし、命令も遂行する。だからお別れだ。
そう言い捨ててずっと握っていた短剣を振り上げると女はまた嗤った。


「…わたしは、忘れたいわ。全部、全部…ただ、生きたかっただけなのに」


空虚な気持ちでその囁きを聞きながら、一直線に短剣を振り下ろす。
俺と同じくあの手を取ってしまったが故にこうなってしまった女。
ただ生きたいだけだとそんな些細な願いを持つ女。
けれど、女の願いが叶うには、きっともう遅すぎたのだ。



・ ・ ・ ・ ・



巣に帰還すると、何故か紅色の女が俺の部屋の寝台の上で気怠げに紙束を捲っていた。

「あら、お帰りなさいケイニスちゃん」
「…何で俺の部屋にお前がいるんだよ。まあいいや、片したぞ」

酷く胡乱な目になりつつも、ある意味手間は省けたとばかりにそのまま仕事の報告をする。

「そう、ありがとぉ」

そういった後、手を口に当てて退屈そうに欠伸をする女はいつも通りだ。
人殺しを報告されたというのに、だ。いや、こいつがからかう目的以外で態度を変えることなんてほとんどないが。
とりあえずはよ出てけよと思いつつも、ふっと出立前の会話を思い出し、疑問に思っていた事を口に出す。

「そういや、今回の指令。何で最初に桜を散らせなんて言ったんだ?」

殺せとか消せとかそういうものじゃなく、何でそんな無駄とも言える婉曲な言い方にしたのか。
いつものお遊びかとも思いつつそれでも気になってしまったのでそう問うと、女は笑った。

「ああ、だってあの子は桜がとても好きだったから」
「…はい?」
「好きなものに例えられるのは嬉しくないかしら?」

さらっとそんな事を言う女の、甘やかな笑み。じわじわと理解してしまってそれにぞっとする。
散らせ、つまり消せと命ずる口でそんな妙な気遣いをする神経はほとほと理解できなかった。
思わず沈黙していると、女はふと思い出したように手をぽんと一つうった。

「ああそうだわ。ねぇケイニスちゃん。もう一つお願いしてもいいかしら」
「…何だよ」
「あの子をねぇ、此処の山の中腹に埋めてきてほしいのだけどぉ」
「は? …いや、先に言えよ。後何でだよ」

ぱらりと取り出された地図で示された、此処からはそこそこ遠いそんな場所。
遺体の処理…そう、処理ならばそんな辺鄙な所に行く必要はないだろうに。
しかも何でまた俺に。突然の気の滅入る追加の仕事に思わず半眼でそう言うと。

「あそこの中腹にね、綺麗な桜がたくさん咲いてる場所があるの」
「あの子は、桜の木の下で眠るのが好きな子だったから」


女が、笑う。甘やかに。いや甘やかと言うよりは。

「だから、ね?」

ふんわりと、普段と違いそれこそ慈しみを湛える様な蛇女の笑みを見て。
ああこいつの事は一生理解できないのだろうと、何となく俺はそう思った。


俺は結局それ以上何かを言うことなく、ぎこちなく頷きを返して。
そうして、酷く複雑な思いを抱きながらも桜の木の下に死体を埋めた。



・ ・ ・ ・ ・





「……あれ、何年前のことだったかね」

中々に気の重い記憶を思い返してしまい、思わず己を茶化すように言ってから一つため息を吐く。
俺は善人か悪人かと問われれば間違いなく後者だとは自覚しているが、
それでもやはりそういう事に対して気が滅入るくらいの良心は持ち合わせている。

「…っと、しまった。手止まってた」

まあそれでも実行できてなおかつ割とぼんやりになる程度に忘れていたり、
思い出しても過去だと割り切ってしまえる辺りやはりどうかとは思うが。
ぱらりと止まっていた資料を捲る手を再び動かし始めながらも、ぼんやりと考える。
桜の下で眠る女は、あの山奥で果たして安らげたのだろうか、と。

若かった頃の俺は、季節が一巡り程した後で再度そこへ行ったことがあった。
けれど、一面の薄桃色に華やぐ何本もの木を見ても何処に埋めたか分からず結局何もせずに帰ったのだ。
あれ以来その山には行っていないが、果たして本当にどうなったのだろう。
益体も無いことをそこまで考えてから、ふと気づく。エルシオはあんな事を言っていたけれど。

「あそこの桜、どれも同じ色だったな……」

都市伝説は所詮都市伝説なのだろう。ただただ淡い薄桃色の木の群れを思い出す。
それとも…忘れたいと嘆いた女は、死後目立ちたくもなかったのだろうか。
そんな馬鹿な考えを思い浮かべかけて、俺はまた資料を捲る手が止まってしまっていたことに気づく。

「…はぁ。仕事するか」

首を一つ振って、益体もない考え事…何でもない感傷を放り捨てて。
俺はいつも通りの仕事へ思考を戻した。










…また…お会いしましょう……。

…過去に対する感傷…朧に留める記憶…。
…悪であると…己を評価する彼の……。
…これもまた…否定できぬ…歩いた道なのでしょう……。

…訪れてくれた方に、感謝を…。
…また、カードが現れた時に…お会いしましょう…。






 

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  • 2019.06.24 Monday
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